1. 暴力団対策法による住民保護の仕組み
「暴力団員による不当な行為の防止等に関する法律」(暴力団対策法、平成3年法律第77号)は、暴力団による市民への不当な行為を規制し、市民の安全を守るための法律です。住民に関係する主な保護制度を解説します。
暴力的要求行為の禁止(第9条)
指定暴力団の構成員が、暴力団の威力を示して行う不当な要求行為は禁止されています。具体的には以下のような行為です。
- ●みかじめ料・用心棒代の要求
- ●不当な金品の要求
- ●不動産取引への不当な介入
- ●債権取立てにおける暴力的行為
事務所の使用制限(第15条の3・第15条の4)
2012年の法改正で導入された制度です。
特定抗争指定暴力団
暴力団同士の抗争が発生した場合、公安委員会が「特定抗争指定暴力団」に指定できます。指定された場合、警戒区域内での事務所の使用が禁止され、組員の集合も制限されます。住民の安全確保のための強力な措置です。
特定危険指定暴力団
市民に対する危険な暴力行為を繰り返す暴力団は「特定危険指定暴力団」に指定され、より厳しい規制が課されます。警戒区域内での事務所使用禁止に加え、構成員の行動も大幅に制限されます。
代理訴訟制度(第32条の4)
暴力団事務所の付近住民が、事務所の使用差止めを求める訴訟を起こす場合、暴追センターが住民に代わって訴訟を行うことができます。これは、住民が直接暴力団と対峙するリスクを避けるための制度です。
- ✓住民の氏名・住所を暴力団に知られずに訴訟を進められる
- ✓暴追センターが訴訟費用の貸付を行ってくれる場合がある
- ✓専門の弁護士を紹介してもらえる
2. 暴力団排除条例でできること
暴力団対策法に加え、各都道府県・市区町村が独自の暴力団排除条例を制定しています。2011年10月までに全都道府県で施行されました。
条例で規制されている主な事項
- ●事務所の新規開設の制限:学校・保育所・図書館等の周辺(通常200m以内)での暴力団事務所の新規開設を禁止
- ●不動産取引での利用禁止:暴力団の活動拠点として不動産を使用することを禁止。不動産の賃貸借契約に暴力団排除条項を入れることを推奨
- ●暴力団への利益供与の禁止:事業者が暴力団に利益を供与することを禁止
- ●青少年の保護:暴力団が青少年を勧誘することの禁止、学校周辺での活動制限
条例の活用例
賃貸物件のオーナーが、暴力団排除条例を根拠に暴力団関係者との賃貸契約を解除し、事務所の明け渡しを求めた事例があります。条例には罰則規定がある場合もあり、法的な強制力を持っています。
3. 相談窓口と相談の流れ
暴力団事務所の近くに住んでいて困っている場合、以下の窓口に相談できます。
暴追センター(最初の相談先)
暴力団問題の専門相談窓口。無料で相談でき、匿名でも対応してもらえます。
- ● 電話相談・面談相談に対応
- ● 弁護士の紹介・訴訟費用の貸付
- ● 警察との連携支援
- ● 事務所撤去活動の支援
主要な連絡先:東京 03-3291-8930 / 大阪 06-6946-8930 / 福岡 092-651-8938
警察(被害発生時)
暴力団による具体的な被害がある場合は、警察に相談・通報してください。
- ● 緊急時:110番
- ● 相談:警察相談専用電話 #9110
- ● 組織犯罪対策課:各警察署に設置。暴力団関連の相談を専門に受け付け
弁護士(法的手続き)
事務所の使用差止請求や損害賠償請求など、法的手続きが必要な場合。
- ● 暴追センター経由で暴力団問題に詳しい弁護士を紹介してもらえる
- ● 日本弁護士連合会の「民事介入暴力対策」専門弁護士に相談も可能
- ● 法テラス(法律支援センター)で無料法律相談(収入要件あり)
自治体の相談窓口
市区町村の暴力団排除相談窓口でも相談を受け付けています。
- ● 市区町村の安全対策課・防犯課等に設置
- ● 暴力団排除条例に基づく行政指導の相談
- ● 地域の暴力団排除活動への参加案内
4. 事務所撤去の流れと実績
暴力団事務所の撤去は、実際に全国各地で成功しています。住民・暴追センター・警察・弁護士が連携して取り組む事例が増えています。
撤去までの一般的な流れ
- 1
住民の声を集める
暴力団事務所の撤去を求める住民の署名を集めます。地域の町内会や自治会が中心となることが多いです。
- 2
暴追センター・警察に相談
暴追センターに連絡し、撤去に向けた支援を依頼します。警察とも連携し、法的な手順を確認します。
- 3
使用差止仮処分・訴訟
弁護士を通じて、事務所の使用差止めを求める仮処分や訴訟を提起します。暴追センターが代理で訴訟を行うこともできます。
- 4
明渡し・撤去の実現
裁判所の決定または和解により、事務所の明渡し・撤去が実現します。強制執行が必要になるケースもあります。
撤去の実績
暴力団対策法の施行以降、全国で多数の暴力団事務所が撤去されています。暴追センターの支援による住民訴訟や、不動産オーナーによる明渡し請求、行政命令による使用禁止など、さまざまな方法で撤去が実現しています。一つの事務所が撤去されると、周辺の不動産価値が回復する傾向があります。
5. トラブル発生時の具体的な対処法
暴力団事務所の近くに住んでいて、実際にトラブルが発生した場合の対処法です。
威嚇・脅迫を受けた場合
- ● 身の安全を最優先にし、その場を離れる
- ● 110番通報する(緊急性がある場合)
- ● 日時・場所・内容を記録しておく(後日の相談や被害届に必要)
- ● 暴追センターと警察の両方に相談する
騒音・路上駐車などの迷惑行為
- ● 直接苦情を伝えることは絶対に避ける
- ● 警察の相談窓口(#9110)に連絡する
- ● 自治体の生活安全課や環境課に相談する
- ● 日時・状況を記録(写真・動画は安全な範囲で)
金銭の要求を受けた場合
- ● 一切応じない(一度応じると継続的に要求される)
- ● その場で断り切れない場合は「確認します」と回答を保留する
- ● すぐに暴追センターまたは警察に相談する
- ● 暴力団対策法の「暴力的要求行為の禁止」に該当する可能性が高い
6. 賃貸の場合の選択肢
賃貸物件に住んでいて、近くに暴力団事務所があることが後から分かった場合の選択肢です。
選択肢1:契約解除・引っ越し
最も確実な方法です。暴力団事務所の存在が契約時に告知されていなかった場合、不動産会社や大家に対して、引っ越し費用や違約金の免除を求められる可能性があります。まずは不動産会社に状況を伝え、交渉してみてください。
選択肢2:家賃の減額交渉
引っ越しが難しい場合は、暴力団事務所の存在を理由に家賃の減額を交渉する方法もあります。法的な義務はありませんが、大家が応じるケースもあります。
選択肢3:告知義務違反による損害賠償請求
不動産会社が暴力団事務所の存在を知っていたのに告知しなかった場合、損害賠償を請求できる可能性があります。弁護士に相談して、法的な対応を検討してください。
7. 持ち家の場合の選択肢
持ち家の場合は賃貸ほど簡単に引っ越せないため、より慎重な対応が必要です。
選択肢1:事務所撤去を目指す
暴追センターに相談し、地域住民と協力して事務所の撤去を目指します。時間はかかりますが、最も根本的な解決策です。事務所が撤去されれば不動産価値も回復する可能性があります。
選択肢2:売却する
暴力団事務所の存在により不動産価値は下落していますが、売却は可能です。売却時には暴力団事務所の存在を告知する必要がある点に注意してください。買取専門の不動産会社に相談するのも一つの方法です。
選択肢3:購入時の告知義務違反を追及する
購入時に不動産会社や売主が暴力団事務所の存在を告知しなかった場合、契約不適合責任や不法行為に基づく損害賠償を請求できる可能性があります。購入から時間が経っている場合でも、弁護士に相談する価値はあります。
8. やってはいけないこと
暴力団事務所の近くに住んでいる場合、以下の行動は絶対に避けてください。
- ✕直接苦情を伝えに行く:トラブルのきっかけになります。必ず暴追センターや警察を通してください
- ✕事務所や関係者の写真・動画を撮影する:挑発行為とみなされ、トラブルになる危険があります
- ✕SNSで事務所の情報を拡散する:身元が特定され、報復を受けるリスクがあります
- ✕金銭の要求に一度でも応じる:一度支払うと継続的に要求されるようになります
- ✕一人で問題を解決しようとする:必ず専門家(暴追センター・警察・弁護士)に相談してください
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※ 本記事の情報は、暴力団対策法・暴力団排除条例等の法令に基づく一般的な解説です。個別の法的問題については、弁護士等の専門家にご相談ください。暴追センターの電話番号は変更される場合があります。最新の情報は各センターの公式サイトでご確認ください。